世界と代償の秤

眼前のモニターには、明るく光り輝く炎の姿が映っていた。
それは全てを舐め尽くしては、跡形もなく全てを灰へと化してゆく。
そのモニターを睨みつけながら、数人の人間が毒づいていた。
この災厄と向き合って、どのくらい経つのだろうか。
来る日も来る日も、世界が少しずつ侵食されていく様を眺める。
日に日に増してゆく不安と絶望。
同時に侵食されていく生きようとする力。
しかし。
もう、世界は終わりだと、全てを投げ出してしまうほど、人はまだ希望を失ってはいなかった。
この徐々に襲いくる虚無に、たった一つだけ残された希望の光。
対抗出来る手段。
少々、頼りにするには頼りない存在だが、人外の超常的な力を操る彼に、全てを託さなくてはならない状況なのは・・・・間違いなかった。

炎に向かって、一筋の淡い緑色の光の矢が飛び込んでゆく。
まるで流星が落ちていくかのようだ。
その緑の光を纏った銀光の身体がモニターに映しだされると、室内の数少ない人間からは歓声があがった。
その銀光の身体のハリネズミは、物凄いスピードと超常的な力を見せつける。
モニターのなかで、猛威を振るっていた狂気の炎が、その銀光に押されて次々に消失してゆく。
その様子を見ていた一人の若い男が、拳を握りしめながら頭上に掲げて、興奮した様子で叫んだ。
「がんばれ!!シルバー!!そこだっ!!」
男の纏う白衣には、モニターから漏れる緑の光と、炎のオレンジの色彩が混じる。
「・・・・データは取ってるのか?」
興奮して騒ぐ若い男に目もくれず、一人の研究員らしき男は、計器類に気を配る男に声をかけた。
「すごいですよ。ESPの予測量を遥かに越える数値を叩き出してます!今までの最大値の記録を更新しますよ!!」
興奮した様子で答える男。応援の声援が耳障りだ。
「あんな戦い方では、やられるぞ!!誰か止めろ!!」
攻勢に沸いていた室内が、水を打ったように静まり返った。
入口から、威厳すら纏う様な壮年の男が一人、気難しい顔をして足早にモニターに歩み寄る。
モニターには、災厄の炎が、緑光に押されてみるみるうちに、小さく萎縮していく様子が映しだされていた。
「しかし局長!!もしかしたら、このまま災厄を消滅させられるかもしれませんよ!!」
その言葉に、拳を振り上げて、画面内の銀光を応援していた若い男が詰め寄った。
「あいつなら、あいつならもしかしたら!!」

局長と呼ばれた年配の男は、この若い男がモニターの銀光のハリネズミと親しくしていたことを知っている。
その気持ちは痛いほど分かるが、その思いだけが戦況を決めるものでもない。
「止めろと言っている!一度帰還させるんだ!!あれでは・・・・・」
室内から、悲鳴にも似た声が上がる。
一瞬モニターから目を離していたことに気が付いた。
巨大な画面に映しだされた銀光の身体が、グラリと空中で傾いでゆく。
室内にいる全員が固唾を飲んだ。
その小さな身体は、纏っていた美しい緑の光を散らして真っ逆さまに頭から落下し始めた。
「シルバー!!!!!」
室内が騒然となる。
急にキーボードを叩く音。画面に向かって声援を送りだす者。
  「だから言っただろう!!援護は間に合わないのか!?」
「・・・・・無理だ!!!もう間に合わない!!」
緑の奇跡の光を失ったその身体は、とてもとても小さく見えた。
それまでその緑に侵食されて萎縮していた災厄が動き出す。
自分の巣に、舞い落ちてきた獲物を捕らえるかのように、その炎の腕を銀色のハリネズミに伸ばしてゆく。
その掌が、小さな身体を包み込んだ。
白銀の身体から、白い煙が所々に上がり始める。
モニターの中のハリネズミは、大きく口を開け、空を仰いで何事か叫んでいる。
「シルバー!!逃げられないのか!?」
「・・・無駄だ・・・ああなってはもう・・・」
命を吹き返した炎の災厄は、その掌で白銀の身体を包み込む。
丁度、小さな子供が掌に小さな人形を隠し持つかのように。
とうとう、巨大なモニターの中には、炎のオレンジ色だけが映しだされていた。




室内を冷たい沈黙が支配する。
バン!!
誰かが、手近にあった機器類に憤りをぶつけた。
「・・・もう少し・・・もう少しだったのに・・・」
「生命反応は?」
「あるわけないでしょう・・・。あえて聞きますかね?あの画面を見ていて・・・」
局長と呼ばれた男は沈黙する。
分かりきっていることだとしても、確認しなくては気が済まない仕事体質というのも、煩わしいものだ。
それに染まりきっていない、ここに来たばかりの、この感情むき出しの若い男が、少し羨ましくも思う。

「シルバー・・・あんなに頑張っていたのになあ・・・」
画面には、種火のような災厄が地面に広がっている様子が映っている。
「この悪魔め・・・」
憎々しげに、局長と呼ばれる男は毒を吐く。

破壊しか生み出さない炎。
全てを包んでは、全てを無に帰してゆく。

原始の時代において。
人は炎の恩恵を授かるようになってから、急速的な発展を遂げてきた。
時に炎を破壊に使うことはあっても、炎の力が人の制御を離れたことなど無かったはずだ。
これは、神が与えた試練だと。言うものもいる。
神が世界の終息に向けて放った、清浄の炎だと語る。
世界の汚濁を焼き尽くす、神の火と。
その神の火すら、人の欲望から生まれたものだと、知る者は少ない。

炎の災厄は、地面にうずくまりホノホノと、燻(くすぶ)っている。
「あの様子では数時間は動けまい。こちらも次の準備をする必要がある。都合がいい。」
局長と呼ばれる人物は、羽織っていた白衣を脱ぎ捨てると、付近にあるロッカーから、特殊加工してある防護服に身を包む。
「アンダーへいくんですか?」
「そうだ。次の準備をしなくてはならん・・・もう一人・・・」
「一緒に行きます」
若い研究員は同じ防護服に身を包むと、長と肩を並べて歩き出す。



「今回の戦闘データは貴重だ。・・・・良くも悪くも。引き継いでいく必要がある。」
アンダーと呼ばれる研究所の地下へ、エレベーターはすべるように落ちてゆく。
日の当たる地上とは違い、太陽の恩恵が一切届かぬ暗黒の世界。
底の無い墓場に落ちていくようだ。
寒けがする。
それきり、箱の中は沈黙が満ちる。

同行している若い研究員が、その無音に堪え兼ねて口を開いた。
「局長・・・伝説の青い風の英雄って知ってますか?」
まったく。現実味の無い伝説などを伝え聞いて、人はなんとするのだろう。
「うちのばあちゃん達が言うんですよ。遠い昔には、伝説の青い風の英雄っていう、青いハリネズミの獣人がいて、どんな危機からも世界を救ってくれたって。」
局長と呼ばれる男は、深いため息をついた。
「・・・それこそ昔話だろう。伝説だと?ばかばかしい。今居ないものの話をしていて何になる。」
「でも、実際に居たんでしょう?無敵の強さだったとか。本当なんでしょうかねえ?」
「さあな。今となっては過去の話だ。突拍子も無い話ばかりで、何処までが真実で何処までが逸話なのかも分からない。だいたい、成層圏近くまで生身で行ける生き物の話だぞ?正気の沙汰とは思えんよ。そんな話を記録してある、ここのデータベースも 、案外あてにはならないのかも知れないな。」
モーター音すら響かないエレベーターが、目的地への到着を知らせる。
申し訳程度の明かりを頼りに、二人の人間は、めったに生き物の踏み入れない暗黒の領域へと足を進めた。
深度と共に下がっている気温が、防護服の上からでも肌を刺す。
二人の靴音が、反響しては帰ってくる。
数メートル先は見えないほどの暗闇で、先はどれだけ広がっているのか分からない。
幾つかの角と、幾つかの扉を通り越し、二人は最奥に位置する分厚い扉の前にたどり着いた。
その冷たく閉じられた扉は、まるで生あるものの侵入を拒んでいるかのようだ。 これから。
この中にいる、深い深い眠りについているものに、朝が来たことを伝えに行かなければならない。
局長と呼ばれる男は、複雑に編まれたセキュリティーを解いていく。

手順良く封印を解いていく、男の背中を見ながら、若い男はふと思いついたように独り言を漏らした。
「そういえば、ココにいる奴の他に、まだどこかに封印されているのがいるんですよね?・・・・黒い悪魔・・とかっていう、黒いハリネズミ。」
局長と呼ばれる男は、コードを打ち込む手を止めて振り向いた。
「・・・・お前、それどこで?!」
「×××に聞いたんですよ。なんでも災厄をもたらした張本人だとか、究極の生命体だとか・・・」
ため息をついて、局長と呼ばれる男は最後の封印を解く鍵を入れていく。
「×××か・・・。あのおしゃべりめ・・・」

  大きく、重量のある扉が開かれていく。
室内はさほど広くなく、かろうじて視界を確保できるほどの明かりしかない。気温はさらに低い。
円筒形のポッドが立ち並ぶその中を、二人の人間は足を踏み入れた。
いくつかは空のままだ。



「それにしても・・・・・」
若い研究員は、近くにある内容物の浮いたポッドに近づいて、中身を見上げた。
中身が確認できる程度のライトアップが、内容物を浮かび上がらせる。
空中に吊り下げられた、操り人形のようだ。
「・・・ハリネズミの獣人の種族は強いヤツラが多いんですねー。そいつらを元にして、コイツを生み出したのもうなづけますよ」
薄い緑の光を発して、幻想的に光り輝くポッドの中には。
白い被毛のハリネズミが浮かんでいた。
それと同じものが、室内に幾つか存在する。
まるで標本か。もしくは棺桶のようだ。
「青い風の英雄に・・・黒い悪魔に・・・白銀の救世主か・・・」
それらの一つに歩み寄り、局長と呼ばれる男は再び封印を解く作業を始めた。
「残りは・・・4体か。ずいぶん減ったものだな・・・」
開封が進むのと同時に、ポッドに満たされていた液体が排出されていく。
「なんで一気に開封して、災厄を叩かないんですか?」
「・・・・・お前は、自分とまるっきり同じ存在が目の前に何体も現れて、正気でいられると思うのか?」
「・・・・・・・・・・・」
それきり。若い男は話を止めた。

ポッドの中の液体が全て排出されていく。
濡れそぼる、蒼白の白銀の身体に、ゆっくりと朱が差し始めた。
「おい!!他のポッドのシェルターを落とせ!」
若い男は慌てて壁にあるスイッチ群の中の一つを押した。
あっという間に、起動しているポッド以外のものが、黒塗りに落ちていく。



「また新しいシルバーに出会うことになるとはな。」
先程やられたシルバーは、数年しかもたなかった。
自分がここに来たときに生まれたシルバーは、もう少し上手く使えたのだが。
「・・・・記憶の引き継ぎなんかはやるんでしょう?」
「必要最低限の記憶と、戦闘データの引き継ぎはする。それ以外はある程度に限るぞ。でなければ、パンクしてしまうからな。」
「じゃあ・・・・・また、1から仲良くならなきゃいけませんね・・・」
「・・・・そんなことよりも、もっと戦闘の指導を厳しくしなくてはならん。もう、あんな戦い方をされては、身が持たん。」
ポッドの中のシルバーの両目が開いてゆく。
大きな瞳の金色は、先程凶器の炎に飲み込まれたものと、寸分も違わなかった。
「それは・・・こちらの身が・・・ですか?それとも・・・シルバーの残りが・・・ですか?」
ピクリ。とシルバーの両手が動き出す。
この手からあの災厄をも押さえつけるような、強大な力が生み出されていくのかと思うと、背筋が凍る。
こちらに向けられたら・・・と、常に取り付いて回る不安と、恐怖を払い落とす。
「・・・・・・・両方だ。」
局長と呼ばれた男は、若い男の問い掛けに答えてうなった。

あの手に負えないような災厄を生み出したのも人間なら、この兵器を生み出したのも人間だ。
それでも。この兵器の力に頼らなければ、人間は自らが生み出した災厄で滅亡するしかないのだろう。
過去にこれを生み出した、マイルスと言う名の科学者は。
獣人でありながら、人をも凌駕する知識と技術で滅亡の一途をたどっていた人類に、一縷の希望を残してくれた。
次こそは。と一人静かに誓いを立てる。

「おはよう。シルバー。それから。Happy Birthday。」
ポッドの中の、大きな金色の瞳には、のぞき込むようにして自分を見る、人間の男が二人映っていた。


オレが生まれた時から。

この世界は  終わっていた。













パラレルだと思って読んでください。ww
シルバーの謎は多くて、色々な説を作れるところがまた楽しい。
この小説では、人が作り出した最終兵器でした。というものです。
しかもテイルス・・・君が・・

  仮に、ソニックとシャドウのDNAを引き継いでいるとして。
あの二人と接点があって、なおかつプロフェッサージェラルド、エッグマンに引けをとらない頭脳の持ち主・・としたら彼しかいない。
 アークから持ち帰った、プロジェクトシャドウのデータなんかがあろうもんなら、第二のシャドウを作り出すことも可能かも知れません。

とかなんとか。
妄想が走ってしまうわけですwwwww

題名は、お題からいただきました。
いつもありがとうございます。