目の前には何も無かった。
ただただ、練綿と連なる深い深い闇だけが、延々と続いている。

ひどく…寒い。

いつから自分がここにいるのかという事すら、もう、分からなくなっていた。 昨日は…いつだっただろう…。
明日は…いつか来るのかな…。
今日という今の時間さえ、自分の手のひらから、サラサラとこぼれて消えて行く。

いつまでも いつまでも
こうしていようと思った。
恐いとか。淋しいとか。痛いとか。苦しいとか。
それは、どんなものだったっけ。
思い出そうとしても、思い出せない。
ああ。
もう思い出す必要なんか、自分には無かったんだ。


ガタァアアアン!!!

鋼鉄の扉が激しい音を立てて開かれた。
空気を裂くように、金属の軋む嫌な音が室内に響く。
扉は勢い余って壁に激突して、それの一部を激しくえぐった。
それと同時に男が二人、室内に飛び込んできた。

一人は、深海の碧を固めたような体駆の色をした男。
もう一人は、静寂の夜空を切り取って来たかのような、体駆の色をしている男。

海の碧を持つ男は、自分を一目見るなり、愕然とした表情を見せた。

1、2歩後ずさると、急に部屋から飛び出していった。
ああ。そうだ。
この男は、ソニックという名前だったっけ。
飛び出していった廊下の向こうから、男の大きな怒鳴り声が響いてくる。
「ちくしょおおおおっっ!!」
どうしたんだ?ソニック。お前らしくもないじゃないか。
もう一人の夜空の男は、自分を見るなり口に手を当て、黙り込んでしまった。
静寂を守る。
ああ。そうだ。
この男は、シャドウという名前だったっけ。
「……」
言葉無く、自分に近づいてくる。
悪いな。シャドウ。ちょっと長いこと閉じ込められ過ぎたらしい。声が出ないや。
シャドウは傍らに立つと、一言も発せずに俺の様子を伺っている。

ソニックが、ゆっくりと室内に入ってきた。
苦虫を噛むような、怒りを噛み殺すような顔をする。
そんな顔するなよ。
少しずつ、意識もはっきりして来たよ。大丈夫さ。
せっかく二人で助けに来てくれたんだろう?
悪かったな。足引っ張っちまって。
ここから無事に出られたら。今度は俺が二人を助ける番だな。

  シャドウが地面から何かを持ち上げた。
それは真っ赤に染められていて。
細くてスラリとした棒状の物に、大きな金属製の輪が付いていて。五本の細い小枝の様なものが付いていた。
ああ。あれは…。なんだったけな。
それはシャドウ腕の中で、ダラリと力無く垂れ下がる。
シャドウは無言のまま、それを俺の傍らに、音も無く置いた。
それは、俺の持ち物だったっけ?

ソニックは、その大きな新緑の瞳に、らしくもない大粒の涙を浮かべていた。
何で泣くんだよ。らしくもない。
世界を救う、ヒーローなんだろ?もっとしっかりしろよ。
俺だったら、絶対に泣いたりなんかしないのにな。

ボロボロと泣きながら、ソニックが地面にある何かを掻き集め始めた。
口の端からは、ちくしょう、ちくしょう、と、何度も何度もついて出る。
何か、そんな悔しい事でもあったのか?
聞いてやりたいけど、声が出ない。

柔らかくて、ブヨブヨしている物体を、ソニックは体を真っ赤に染めながら掻き集めていく。
ゴムボールがつぶれたような形をしたもの。長くてデコボコしたチューブ状のもの。中には、固くてとがった様なものもある。
何だろう?見たことも無いものばかりだ。
そんなに手袋を赤く染めたら、洗っただけでは落ちないだろうに。

「ソニック。もうやめろ。これ以上は……」
沈痛な声色のシャドウがソニックを止める。 
ソニックは地面を何度も何度も叩き付けながら、ポロポロと涙を落とす。
「シルバー。シルバー。ごめんな。」
シルバー? シルバー…。 聞いたことがあるよ。
なんだったっけな。 誰だったっけな。
「………俺…。間に合わなかった……。」
間に合わなかった?
一体 何に?

ソニックの手が、頬に触れる。
触れているハズなのに、感触が無い。
なんで  だろう   
「ごめんなシルバー。…俺が、もう少し早く辿り着いてたら。」

ソニック  どうして?  まにあわなかったの?

おれは  おれは  そうだ。

シルバーって  なまえだったよ

シルバー。  シルバー。  なまえをよばれる。

まにあわなかったの?

そうか  そうだ  
おれは