銀色の光。



その声が耳に届いたのは、小さな路地を曲がろうとした直前だった。

何が起こったのかと、ハッと耳をすまし、声を上げた主を探す。

振り向いた自分から、少し離れたその場所で、小さな少女が空を見上げて泣いていた。

危害を加えようとしている者は見当たらない。
転んで怪我をしている様子もない。
ならば、何故少女は泣いているのだろうか。

ゆっくりと近づき、少女の視線をなぞるように、一緒に空を見上げた。

澄み渡る青空と、白い雲のコントラストの中に、ポツンと絵の具を落としたかのような丸い赤が踊っている。
シルバーには、それの正体がわからなかった。
「どうかしたのか?…何だ?あれ。」
突然の語りかけに憶することなく、少女は空の赤を指差して、小さく ふうせん という言葉を口にする。
ふうせん? ふうせんって何だ?
「お前のか?」
少女はうなづく。泣きながら、すでにもう自分の手には戻らないであろう、風船の行く末を見守っている事しかできない。
「わかった。取って来てやるよ。」
言うが早いか、シルバーは、自分の能力の一端を発揮する。
その想像を超えた光景に、少女は涙を流すのを忘れてしまった。

白い体のハリネズミは、当たり前のような仕草で空へと登ってゆく。
あきらめていた宝物を、いとも容易く手に入れて、身体に薄い緑の光を纏いながら、少女の前に降り立った。
「はい。もう、手を離すなよ。これ、飛べるんだな。面白い。」
風船の付いた糸を少女に渡すと、白いハリネズミは別れの言葉もそこそこに、颯爽と路地裏へと消えてしまった。

母親らしき女性が、慌てて少女に近付いて行く。
ポカンとした表情のまま、少女は母親に話かけた。

「ママ……。天使が風船をとってくれたよ…?」

天使がくれた風船は、少女の手の中でユラユラと、風とワルツを踊っていた。