膝を抱えて朝日を迎える。

 「う……う……」
 無意識に手を伸ばす。
 寝ている筈の閉じられた瞳から、涙が一粒落ちた。
 「うあ…うあ…うああああっ!!」
 空気を裂くような悲鳴。
 いや、雄叫びに近いか。

 空を掴むかのように手を掲げながら、シルバーは寝床から跳ね起きた。
 はっ はっ と、短い呼吸を繰り返しながら、キョロキョロとせわしなく周囲を確認する。
 急激な吐き気に襲われ、シルバーはたまらず、体内にある全てのものを、吐き出した。
 パタパタと、大きな瞳から、真珠のような涙が落ちる。

 「うっ…うっ………ううっ…」
 その口から漏れるのは、嗚咽だけだった。
 ガタガタと震えている体を押さえようと、付近の壁に背中を預ける。
 


 夢を…見ていた。

 行けども行けども瓦礫しか無かった。
 周囲は白や黒の煙が立ち込める。
 まわりでは沢山の命が、山を作って折り重なっていた。
 口々に助けを求め、自分に救いを求めて手を伸ばす。
 必死に必死にこちらも懸命に手を伸ばす。

 助けなくちゃ。助けなくちゃ。

 しかし、いくら手を伸ばしても、手は届く気配がない。
 そのうちに、伸ばされた手が次々と力無く落ちて行く。
 シルバーは懸命にもがきながら、やっと一つの小さな手を捕まえることができた。
 力任せに引きずり出す。
 出てきたものは………

 小さな子供の腕 だけだった。
 肩から下が…全て無い。

 戦慄が走る。
 思わず取り落とす。
 吐き気が襲う。
 シルバーは、膝から地面へくずおれた。

 どうしたら良いのか、わからなくなる。恐る恐る、手を伸ばした。
 その腕は、みるみるうちに焼けただれていき、炭と化す。
 見れば、周囲も次々と、倣うように炭化して行く。
 シルバーはそれを、絶望の思いで見ている事しか…出来ない。

 俺には…何もできないのか!?

 与えられた能力など、何になると言うのだろう。
 今、目の前の救いを求める手を、助けてやることさえ…出来ない…!
 何も構わず周囲に広がる炭化した命の残骸を掻き抱く。
 真っ白な綺麗な体が、炭にまみれて黒く…黒く…変色してゆく。
 泣きながら、叫び声を上げながら、シルバーは構わず掻き集めては…嗚咽した。






 頭を振る。
 夢か…現か…。震えが止まらない手を…ジッと見る。
 パラパラと涙が落ちる。
 夢の名残か…押し殺した嗚咽が漏れる。

 大丈夫。大丈夫だ。
 何のために、自分はココにいるんだ。
 変えなきゃ。変えなきゃ。

 夢だったとしても。
 それこそをも、変えて見せる力が欲しい。

 窓から見える夜空には、うっすらと美しい水色が差す。
 夜明けが近い。

 窓辺に腰掛け、膝を抱えて、まだ見たことのない美しい朝焼けを、シルバーは一人、待っていた。






















途中まで執筆しながら、終わりをまとめられずに、お蔵入りしていました。 まぁ、シルバー自体、接したことがまだないのでイメージだけで突っ走っている所があります。 prison様からのお題で、これだ!と、一気に書き上げて。 ラストを綺麗にまとめられたので、本当にお気に入りです。 シルバー、泣かせてばかりでごめんよww