Reach for the stars

透き通った光を仄かに宿す宝石の力で浮かんでいるこの島は、元々空気が薄く、気温もやけに低い。本来なら、雪が降り、水は凍ったままになるはずの高度に位置している。だが、決してそうはならない。
何故なら、新緑の守護石が常にこの島を守っているからだ。
緑は枯れる事はないし、花も豊富で、実りも多い。
そうは言うものの、ここ数日の冬型の気圧配置の影響か、今日は風が吹けば身を切るように寒く、夕方から夜にかけてはチラチラと雪を見ることすらあった。

「寒い」
ガタガタと体を震わせながら、きれいな新緑の宝石の横に鎮座している青い針鼠は悪態をつく。
「寒いなら家の中に入ってればいいじゃねーか」
赤いハリモグラは、身も蓋もない事をサラリと言ってのける。
「そりゃそうだけど、家の中に入っちまったら、お前が見に来いって言ったのが見れないじゃないか」
走ってたらこんなこともないのにな! と、ソニックは落ち着きなくその場でバタバタとウォーミングアップするような動作を見せる。
「無理して付き合わなくってもいいんだぜ。これが原因で風邪でもひいたとか騒がれたんじゃたまんねーや」
「What's?! だったら呼ぶなよ!俺が付き合ってやらなきゃ、どうせ一人で寂しく見なきゃいけないんだろ!」
呼ぶんじゃなかったかな… と多少の後悔の念が頭を過ぎるが、今更遅い。
かといって、ソニックの態度はあからさまに嫌そうな態度でもない。
何かを期待するような、待ち望むような、そんな仕草でそわそわと落ち着かない。
落ち着かないのはいつものコトだが。

「なあ、ナックルズ、まだなのか?」
「もうちょっと待てって… 待てねーのかお前は!」
もう随分と夜も暮れ、深夜にかかろうかという時間帯に、ソニックを呼び出したのにはちょっとしたワケがある。
「あ、そろそろか?ほら、落ちた」
ナックルズはスッと満天の星空を指差す。落ちてきそうな、と形容するに相応しいほどの星の数に、一瞬クラクラするが、目を見張ってソニックは空を見上げた。
「何?どこだ?」
「よく見とけよ、ほら、また落ちた。あ、まただ…」

流星群。
折しもこのエンジェルアイランドの真上に位置する星座から、突発的な流星群が生まれたのに気がついたのは、つい昨日の深夜の事だ。
流星群自体は、常に空に近い場所に住んでいるナックルズにとっては、決して珍しいものではない。
派手好きなソニックの事だ、たしかに流星群だけでも喜んで見に来ることだろう。
だが、ナックルズの本来の目的は別にある。

その流星の中に、明らかに何かのメッセージめいたものが混ざっている事に、昨晩気がついたのだ。
「よく、見とけよ… ほら… 」

ナックルズが指差す向こうの星空から、かすかに… だが、確かに、真っ青な流星が… 光っては落ちる。
「……? 青い…?星?」
「流星で青く光って落ちる星なんてのは、それほど見たことがない。今までは。お前がエッグマンの遊園地を叩き壊してから、青く光る星が沢山落ちるようになった。もしかして…と思ってな」
ソニックは寒さも忘れて、星空を凝視する。次々と空から落ちる、真っ青に光る流星に心を奪われたのか、口をぽかんと開け放しなのも気がつかない様子だ。
「……もしかして… ヤッカー…?」
「は…?なんだって?」
それは、あの遊園地で、ちょっとした冒険を一緒にした友人の名前。
「そうさ…きっとそうだ…ヤッカーだ……!!」
「だから、なんだそのやっかって!」
どれほどの距離が離れているかはわからない。
ここからまた再び会おうと思えば、それはいつになることなのか検討もつかないのだ。
例え、スーパー化したソニックが、光の速さで飛ぼうと、再びヤッカー達に出会える確立はまさに天文学的と言っていい。
きっとこちらから会いにいくよりも、力の塊のような彼らのほうが、こちらへの語りかけの手段を持っていることだろう。
青い流星はソニック自身の表れなのかも知れない。満足な別れも出来ぬまま、自分たちの星系へと帰ってしまったヤッカー達の、せめてものメッセージなのだろう。
ソニックはニコニコと上機嫌でナックルズの肩を叩く。
「いやー、寒かったけど、来てよかったぜ! Thank you!ナックルズ!」
「おう…そりゃ良かったな… って、だから!やっかってなんなんだよ!」
「まあ、暖かいもんでも飲みながら話してやるって!」
キンと冷えた空気が、尚更星空を美しく見せる。
チラチラと光っては落ちる、流星のメッセンジャーを見ながら、ソニックは遠い銀河の果てにいる友人に想いを馳せていた。