泣かないで

欲しい。
君には笑っていて欲しい。
泣く という行為が、こうも胸を締め付けるということを 君が教えてくれたんだ。



どうしてマリアは目から水が落ちるんだ?
と尋ねたことがある。
それは彼女が、本を読んでいた途中の出来事だった。
僕には理解し難い事だった。
本を読んでいたのに、急に両の目から、ぽろぽろと水がこぼれて落ちたのだから。

目から 涙 という水分が分泌されて、瞳に入った異物などを押し出すという機能があるということは知っていた。 
目に何か入ったのか?と尋ねると、彼女は ううん と首を振った。

「悲しいお話を読んでいたから」

と彼女は悲しそうに話す。
「悲しい…」
悲しいという感情。それはどういう事だろう。
「大切な何かが失われたり、大事な人が亡くなったり。そういう・・・・なんていうのかな。それって、とても悲しい事なのよ。そんな時、私達は涙を流すの。泣くっていうのよ」

泣く………。泣くというのか。
「どうしたら、その泣く という事を止められるんだ?」
僕は君の 泣く 顔よりも 笑う 顔の方を、見ていたいと思うんだ。
それはなんという感情なんだろうか。

すると、意外にもあっさりと、彼女は笑う。
「シャドウがそうやって、優しくしてくれれば、いいと思うよ」
「……?優しい?優しいのか?この僕が?」
「うん。心配してくれているんでしょう?」

混乱は増すばかりだ。
僕は何をしたわけでもない。どうしたら 泣く のを止められるのかと 尋ねただけなのに。
優しい と言う行為も。僕にはよくわからない。

でも君が、それで笑ってくれるなら。それ以上のことはないと思った。