壊れた時計

を、クリームが大事そうに抱えて持ってきたのは、何時間前だったろう。
不安そうな顔をして、目に涙を一杯浮かべて。
「おかあさんの、大事な時計なんデス・・。おとうさんとの思い出の宝物なんデス・・。急に動かなくなってしまって・・。お願いデス。テイルスさん・・・直してください・・お願いデス・・」
ポロポロと涙を流すクリームを宥めて、壊れたという時計の様子を見た。
古い作りの仕掛け時計で、ちょっとこいつは分解するにも骨が折れそうだ。
困ったような顔をすれば、きっとクリームはもっと泣くだろう。それだけはしたくなかった。
大丈夫だよ すぐに直すよ  といった時の彼女の晴れやかな笑顔に、答えてやろうと、孤軍奮闘。

気づけばとうに日は傾いて、近くの家からは夕餉(ゆうげ)の匂いが漂ってくる。
グウ と急にお腹がなった。 ああ そういやコレを見始めたのはお昼前だったっけ。お昼ごはんを食べ忘れていたことに、今気が付いた。お腹減ったな。
目に当てていた、拡大用のスコープをはずす。クリームは、どこにいっただろう。
夢中になると、周囲の状況が目に入らなくなるのは、悪い癖だ。 お昼ごはんを食べに、一度家に帰ったのかもしれない。
細かい作業を繰り返していた体を、存分に伸ばしてやると、コキコキと肩が鳴った。
隣の部屋から水の入ったペットボトルを持って来ようと、一歩踏み込んで……驚いた。

ソファーには、小さく丸まって眠る 小さなウサギの女の子。

もしかして、ずっと待ってたの?もう…7時間以上になるっていうのに。

作業台から持ってきた時計を、彼女の眠るソファーの近くのテーブルに置いた。
チリチリと、時計の針を動かすと、かちりと針の重なる音が鳴る。
それと同時に、時計に飾られた2体の人形が、クルクルとダンスを踊りだした。
流れ出す、綺麗なオルゴールの音色。

この音で、彼女は目を覚ますかな。
満面の笑みを予想して、ちょっと幸せな気分になったのは、内緒にしておこう。