たった一つ

手のひらに残された奴の残骸を握り締めた。彼女に手渡したはずの奴の名残は、今は俺の手のひらにある。
自分には、過ぎたものだ と彼女は言った。 俺は無言でそれを受け取る。
ズシリとかかる金属の重みと、手袋の薄い布地さえも抜けて伝わる、その冷たい温度が手のひらに刺さる。
あの時に、無理やりにでも握り締めた これ は、灼熱の温度で手のひらを焼いたというのに。

あなたが持っているべきではないの? と言った彼女は、言葉少なにきびすを返して去ってしまった。
「今更」
これをどうしろっていうんだよ
手元にあったら、こいつを見るたびに思い出すじゃないか。
あの時 目の前から滑り落ちていった 命の重み。

「は。どーせひょっこりあらわれて、こいつを返す日でもくるんだろうさ。 預かり賃は高くつくぜ。」

俺は無造作にそいつをどっかのケースに投げ入れた。