君にはきっとずっと言えない。

「ハァイ!ソニック!」

家の外に居たのは、別段、深い付き合いのない女だった。
フラフラと飛び歩くソニックが、たまに自宅に帰ると、時々現れる。
別に嫌っているわけでもないし、好きなわけでもない。
旅の話を聞きたがったり、最近のここいらの出来事を聞いたりする。まぁ、話し相手ってところだろう。
得に断る理由もないので、久しぶりだな、と答えて家に上げた。

「相変わらずの生活、送ってるのねー?」
「1つの所に居るのが嫌いでね。気ままに飛び歩いてるさ。」
「いつ来てもいないんだもの。たまに会えると嬉しいわ」
「そりゃどーも」
女ってのは面倒な生き物だ。
自分の都合に合わなきゃ、機嫌を損ねる。
ましてや思い通りに行けば、行ったで不満をもらす。
「で?何か用か?」
「別に?用なんかないわ。久しぶりに顔が見たくなっただけよ。たまにはあなたの方から会いに来てくれたら嬉しいんだけど。」
「…ま、気が向いたらね」
「つれないわね」
手早くグラスに氷とアイスコーヒーをついでから手渡し、ソファーに座らせる。
ソニックは向かいのソファーに腰を降ろす。
「ああ!そういえば!」
女は飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて、思い出したと手を打った。
「?」
「この間、私、街角で妙な子に会ったのよ」
ソニックは手にあるコーヒーをゴクリと一口飲んだ。
「へぇ…?どんな?」
「それがねー、あなたを探してるって言うのよ?ピンク色の可愛いハリネズミの女の子。」
「……」
ソニックは無言で話を聞く。
「あなた、あんなに小さい子にも人気があるのねー。」
「へぇ…。そりゃ光栄だね」
「知り合いか?って聞いたら、あなたと結婚してもらうんだっ…とか言ってたわよ?笑っちゃう」
ピクリと、ソニックの耳が跳ねた。

「ずっと追いかけてるとか、言ってたわよ?…知り合い?」
「…さあ…?どうだろう…」
ソニックはそ知らぬ顔で受け流す。
「かなりあなたにご執心だったみたいよ?……まぁ、あれくらいの年頃の子って、いっときの感情で追っかけしてるんでしょうから、気にしないほうがいいわよ?」
「……そうかな…」


手に持っていたコーヒーのグラスをテーブルに置いた。
カランと氷が音を立てる。
「あなたを追いかけて行くなんて、ちょっと無理よねぇー?かなりの酔狂な女でもないと、追いかけるなんてきっと無理。」
女はテーブルからコーヒーを手に取ると、一口飲んだ。
「捕まるのなんて、ごめんでしょ?」
「ああ。ごめんだね。」
「そうよね…。ねえ。」
女はさも良いことを思いついたという顔をしたかと思うと、ソニックに向かって誘うような笑顔を見せる。
「ねぇ、もしも、私を連れていってくれたら、どこへだってついて行くけど?」
その申し出を聞いて、ソニックがジッと女を見つめる。

「ハッ」
鼻で笑い飛ばした。
「無理さ。」
「どうして!」
あからさまにムスッとして、機嫌を損ねた女が、ソニックを睨みつける。
「あいつ以外、オレの後をついてこられる女なんかいないさ」
「は?ちょっと…!それ、どういう…」
ソニックはソファーから立ち上がる。
「自分の命が危ない時だって。世界が滅亡しそうな時だって。あいつはずーっとオレの後をついて来てるんだ。 これからだって…ずっとそうだろ。」
女は訳がわからないといった風な顔をする。
「そ…それって、誰のこと…?もしかしてあの」
ソニックは、さっと玄関の扉を開ける。
「悪いけど、帰ってくれないか?急用を思い出したんでね。君と話すことは、もう無いしね。」
「…ソニック…!」
落胆と、逆恨みと、ソニックの語る女に対する嫉妬心とが入り混じったような複雑な表情で、女は立ち上がるとスタスタと外へ出る。
「ああ!それから。」
「?何よ?」
ソニックはニッコリと笑いかけながら言った。
「オレから君に会いに行くつもりは無いからな。そのつもりで。bye!」
バタン。扉の閉まる音が響く。
外からは悪態をつく女の声が騒騒しい。
知らんふりをして、コンポの音量を上げた。

やっぱり、女ってのは、面倒な生き物だ。
でもまぁ、たまには。
追い掛けられるだけではなくて。
自分から会いに行ってやるのも良いかなと。
いつもの自分の気まぐれが顔を出した。

























なんか…ソニックのようでソニックでないような。ちょっと大人びた感じで書いてみました。こんなネタが降ってくるとはビックリでした。